民族誌(みんぞくし)
最終更新:2026/4/15
特定の民族や集団の文化、社会構造、歴史などを、長期間の現地調査(参与観察)に基づいて記述・分析する文化人類学の調査手法およびその記録のこと。
ポイント
人類学の一分野であり、異文化理解を深めることを目的とする。記述対象の生活様式を包括的に捉える。
民族誌とは
民族誌(Ethnography)は、人類学、社会学、文化人類学などの分野において、特定の民族や集団(社会)の文化、社会構造、歴史、言語、生態などを、長期間にわたる現地調査(フィールドワーク)に基づいて記述・分析する学問的手法、およびその成果物を指します。単なる異文化の描写にとどまらず、その社会の成員の視点(イナフ・ビュー)を重視し、内部からの理解を目指す点が特徴です。
民族誌の歴史
民族誌学の起源は、19世紀の探検家や宣教師による異文化に関する記録に遡ります。しかし、本格的な学問分野として確立したのは、20世紀初頭のイギリスにおけるマルセル・モースや、アメリカにおけるフランツ・ボアスの研究がきっかけとされています。ボアスは、文化相対主義の立場から、自文化中心主義的な視点を批判し、各文化をその固有の文脈の中で理解することの重要性を強調しました。
民族誌の方法論
民族誌研究の主要な方法論は、参与観察(Participant observation)です。研究者は、調査対象の社会に長期間滞在し、その社会の成員として生活を共にしながら、彼らの行動、言動、思考、感情などを観察し、記録します。同時に、インタビュー、フォーカスグループ、文書調査なども行い、多角的な視点からデータを収集します。収集されたデータは、詳細な記述(thick description)として記述され、分析されます。
民族誌の応用
民族誌は、学術研究だけでなく、医療、教育、ビジネス、政策立案など、様々な分野で応用されています。例えば、医療人類学においては、特定の文化における健康や疾病に関する信念や行動を理解し、より効果的な医療サービスを提供するために活用されます。また、ビジネスにおいては、異文化間のコミュニケーションを円滑にし、グローバルな市場での成功を支援するために活用されます。
近年の動向
近年では、デジタル技術の発展に伴い、オンライン・エスノグラフィー(Online ethnography)と呼ばれる、インターネット上のコミュニティや仮想空間における人々の行動や交流を調査する手法も登場しています。また、マルチモーダル・エスノグラフィー(Multimodal ethnography)と呼ばれる、写真、映像、音声など、複数のメディアを組み合わせてデータを収集・分析する手法も注目されています。